NHK インプラント番組3

ここ2回ほどNHKのインプラント番組についてコメントしてきた。

私は勝手に番組を3つのカテゴリーに分けて捉えさせて頂いた。

①インプラント治療を導入して大きな利益を得た先生が紹介された。②インプラント治療で苦痛を受けた患者さんが多く存在する。③メーカー主導の少ない研修でインプラント治療を行う先生が存在する。

今日は③の「メーカー主導の少ない研修でインプラント治療を行う先生が存在する。」に対して私の考えを述べたい。

 

研修の話しの前に、インプラント手術は難易度の高い手術なのだろうか?

インプラントは歯の存在しない顎の骨に埋入するのが大原則である。このことはインプラントの手術に扱う組織は、歯肉と顎骨のみと言う事になる。

埋入手術は、手術前の検査で太さと長さを決定したフィクスチャー(インプラント本体)を、切開して広げた歯肉の下に現わした顎骨に、予め決めた位置から・予定した方向に・予定した太さと長さまで・慎重にドリルを進めて行けばいい。

その後、ドリルで拡げた顎骨にフィクスチャーを慎重に埋入する。そして切開した歯肉を元の位置で縫合すればいい。至ってシンプルな術式である。

 

話せば紙芝居の様だが、実は臨床はこんなに単純ではない。

下顎の骨には、脳から出た神経と血管が走る管(下歯槽管)があったり、舌側の歯肉には動脈(舌動脈)が走っている。

また、上顎には鼻の穴(上顎洞)が間近に迫っている。

トラブルはこれらの組織や器官に発生しやすい。

 

しかし、下歯槽管と上顎洞はレントゲン写真で十分診査可能である。

そこを避けて手術を行えばいいのだが、歯科医師はなぜかぎりぎりにチャレンジしている様である。

私はそのチャレンジが仇となり、世に言う「トラブル」になっているのだと思う。

 

 

上顎洞までの距離が短い時は、ぎりぎりを狙うのではなく、上顎洞自体を上へ押し上げる手術を併用する。

下歯槽管まで十分な距離がない時は、骨の高さを増す手術を予め行っておく。

これらの手術は口腔外科手術の大胆さと、歯周外科手術の繊細さが求められる。

 

話しは変わるが、インプラント手術には歯肉を拡げないで埋入する「フラップレス手術」を行うグループもある。

患者さんの負担軽減と、手術後に歯肉の見た目が悪くなるのを防ぐためらしい。

このため、顎の骨を見ないで歯肉の上からドリルを進める。私は怖くて出来ない。

フラップレス手術には術前のCTスキャン検査が必要である。CT検査により骨や周囲組織の形態を理解しているから問題ないらしい。

外科手術の基本原則に「術野の確保」と「術野の明示」がる。

術野を確保すれば顎の骨からインプラント体が逸脱するようなトラブルは防げる。さすれば舌動脈を傷つけるようなトラブルは大幅に軽減できるのだが。。。

 インプラント治療のために高価なCT撮影装置を購入したり、手術室を設置する歯科医院も増えているようである。

これら設備の投資のためか、「毎月○本のインプラントを埋入するだけで大丈夫」などと無責任な営業をする業者もあると聞く。。。

 

 

 話しを戻そう。

インプラントはメーカー主体の研修のみで実践して良いか?

私はインプラント手術は至ってシンプルであるが、困難な症例には口腔外科手術や歯周外科手術の経験が求められると考えている。

 

 

しかし、インプラントはメーカーによって微妙に取り扱いが異なる。

自分自身が使用するインプラントについては、開発から構造まで熟知した上で精通しておくことが必要とも思っている。

そしてこのことは、メーカーが主催するインプラント研修会を安易に否定することではないとしたい。

 

 

 

最後になるが、NHKも「インプラント治療は、 歯を失っても、自分の歯のようにしっかりかむ感覚を取り戻せる画期的な治療法であり、治療法自体を批判しているわけではない。

この治療法が安全に行われ、トラブルが無くなるよう、さらに取材を続けていきたいと思う。」としている。

 

医学的には病態であるインプラントをより長く機能させるためには、家庭と医院で患者さんを見守る必要がある。

さらに、インプラントの埋入以外にも治療の選択肢があることを理解頂いた上で、利点・欠点を含めて情報を共有することが大切ではないかと思う。

 

 

写真は朝日新聞社から出版されたインプラント書籍。

いいの歯科医院も「宣伝」ではなく「紹介」されている。

 

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